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(GRIT)  やり抜く力

 2月も過ぎようとしています。何度も繰り返すようですが、時間そのものは誰にとっても、何処でも同じであることは、自明の理なのでしょうが、年齢を重ねた私には、本当に短く思われるのです。そうした違いを生む元になっているのは、何なのでしょうか。心理学者であれば、それを明確に説明してくれるに違いありません。

 先日、保護者を前にして(これはめったにないことなのですが)、子どもたちの現状を述べさせていただくとともに、2冊の本を紹介する機会を得ました。目的は、子どもたちの現状を知ってもらい、後日、子どもたちが、どれだけ向上したかを確認する参考とする為のものです。

 私たちは、悪い経験の過去のことを忘れてしまう傾向にあります。子どもたちも、もちろん、そうに違いありません。それこそ、人間が生まれ持った本能なのかもしれません。

しかし、上位の成績を有する子は、それを記憶として残すことによって、その後の向上のための参考にしているのかもしれません。

それに対して、現状が思わしくない子にとっては、努力不足の過去を早く忘れ去ることが、自分にとって、幸せなことだと考える為の無意識の反応なのかもしれません。

学習能力もスポーツ能力も、誰しもが同じではありません。成績のよい子は、それは過去の自分の努力の結果が、現在の自分を作りあげたということを知り、それを、さらなる努力を重ねるための源泉としているのかもしれません。

 『子どもに夢を叶えさせる方法』という、体操界で活躍する白井健三君の父親の著作に触れる機会がありました。特別な目的をもって、買い求めたわけではありません。

どうせ、父親の語る息子の自慢話であろうと、高を括って読み始めたのです。

その本を読む動機となったのは、家にほこりをかぶっていた一冊の本を手にしたことです。それは、『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』という本です。これは、現在は、小西美術工藝社代表取締役社長である、デービッド・アトキンソン氏の著作です。

これもまた、無礼なことなのですが、時間潰しのつもりで読み始めたものです。これが、私に再び読書の良さを呼び起こしてくれました。そして、これが白井さんの本を手にするキッカケにもなったのです。

 私も、過去については、早く忘れたい方なのです。大学生頃までは、多少は読書に親しんでいたのですが、教員という仕事についてからは、恥ずかしいほどに、遠ざかってしまったのです。

恥ずかしいというのは、もし、数学や理科を専門にするような立場であれば、そんなことはないのでしょうが、国語という教科が専門であることを考えると、そう言わざるを得ません。

 話は戻りますが、この2冊の本は、表題を見ただけでは、全く分野の違うものにしか見えません。もちろん中身もそうなのですが、ただ、そこに共通していたものは、著者の能動的な考え方、生き方です。

退職年齢までは、公立高校の国語教師として勤務し、その後、現在校にお世話になったわけですが、その50年近くの教師生活の間、教師としての仕事はもちろんですが、部活動の顧問としての生活も続けてきました。最初の数年は、多少、野球の経験があったということで、野球部の顧問をしていました。次に転勤した学校には、ベテランの顧問が二人もいたということもあり、そこに割って入るには、なかなかむずかしい状況でした。

折りも折り、数人の生徒がやってきて、バドミントン部の顧問になってくれる者がいないので、ぜひ顧問になってほしいという依頼がありました。

彼らはバドミントンの名門中学の卒業生でしたが、顧問がいなければ、部を立ち上げることも出来ないし、試合にも出られない、そんな状況だったのです。私もバドミントンについての多少の知識はありましたが、技術的な自信はありませんから、躊躇していましたが、つい、「いいよ」言ってしまったのが、その後の40数年のバドミントン生活の始まりです。

途中5年間ほどの休止期間がありますが、それは、県立高校の5年間、本校での8年間の管理職としての仕事が関係していたということもあります。

県立高校でのバドミントンとの関わりの40数年の最高の成績は、インターハイベスト8でした。しかし、それは、私にとっては、負け惜しみではなく、十分に満足なものであったと思っています。

 県立高校を退職すると同時に、現在の学校にお世話になったわけですが、40年近く続けてきたバドミントン中心の生活習慣は忘れ難く、再度の挑戦を試みたいという思いが、燃え上がってきました。

しかし、今まで携わってきた高校生との関わりではなく、小中学生と関わってみたいという願望でした。龍ケ崎市には、バドミントン部の存在する中学校は存在しません。まさしく、バドミントン不毛の地だったのです。それに対して、強豪校の存在する地域には、バドミントンに関わる小中学校が多く存在します。現在もそうですが、龍ケ崎市のバドミントン活動は最悪、と言ってもよい状態なのです。

そんなこんなで、小学生との関わりを持つことになったわけですが、スタート時は、子どもたちには、バドミントンに親しむ機会を与えることが役割、それぐらいの考えしかありませんでした。その理由は、小学生の状態ではハードなバドミントンはできないだろうと高を括っていたのです。

 バドミントンとの関わりについては、これぐらいにして、保護者に紹介した2冊の本について説明を戻しましょう。白井さんと言えば、若くして、床体操で世界一に輝いた白井健三君の父親の白井勝晃(まさあき)さんです。この書を手にしたキッカケは、発売間もないということもあって、書店の見やすいところに展示されていたこと、そして、現在ではめずらしい、800円と値段が安かったことではないでしょうか。

一方は経済アナリスト、一方は体操教室の経営者という何の関わりもなさそうに見えますが、彼らの語る言葉には、説得力があり、時には共通の思想・理念さえも感じられます。アナリストの言葉を引用すると、「経済を良くするためには、向上心が必要」「弱点の改善なしに成長はない」「悪いところと比較するな」もちろん、これらは、経済についての彼の考えを述べたものです。

一方の「体で覚えるということ」「子どもの背中を押し続けること」「親も本気にならなくてはいけない」「親がコーチになってはいけない」「あくなき向上心」「夢を諦めない」「挫折を乗り越えた経験を持つ」これもまた、成長していく息子を見続ける中で見出した彼の考え方ですが、詳しくは、ぜひ一読をお願いします。

 最近読み終わったのが、この文章の表題として掲げた、アンジェラ・ダックワースの『GRIT やり抜く力』です。彼女は、ハーバード大学卒業の心理学者ですが、中身は表題にある、「やり抜く力」の大切さについて述べたものです。スポーツに限らず、何事においても「やり抜く力」が大切です。そのためには、「向上心」や「目的」、「やり抜く力」は伸ばすための4ステップ(興味・練習・目的・希望)等々について述べています。本当にやりたいことが、誰にでもすぐに見つかるわけではありません。しかし、大きな目標が決まった時、粘り強く努力を続けられるかどうかは、子どもの頃からの経験や教育が大きくものを言います。大人になっても目標に向かって何年も鍛錬を積む間には、挫折するようなこともあるはずです。そういう時には、どう考えればよいか、どのような行動をとるべきかを、具体的な例で示しています。

そんなこんなで、自己満足の文章を書いてしまいましたが、自分の過去を振り返ると一日でも早く忘れたい反省の過去があるばかりです。我が子のPTAに出たことは数回、妻がどうしても都合がつかないような時、その言い訳は、常に「バドミントン」でした。今でも、妻との喧嘩の理由は、それ以外にはありません。しかし、この40数年の活動は、こうした妻に支えられたものであり、感謝以外の何物でもないと思っています。また、この40数年のバドミントン活動を継続できたことは、「やり抜く力」が、他人よりは、少しですが、勝っていた結果なのかもしれません。

ただ、「やり抜く力」の筆者が、最後に述べる、「やり抜く力のきわめて強い人の配偶者や子どもたちは、本人と同じように幸せなのだろうか? やり抜く力がもたらす可能性のあるマイナス面については、今後さらなる研究の必要がある」とあります。早速、妻にこの点を話してみると、「我が家はマイナス面の典型」という答えが、即座に跳ね返ってきました。

筆者には、ぜひ、マイナス面の研究を続けてほしいものです。

 もし、これらの本を読んでいただけるなら、順番としては、デービット・アトキンソン氏、白井さん、そして、「やり抜く力」でしょうか。小学生の子を持つ親御さんには、十分に参考になると信じています。